自筆証書遺言 相続?遺贈?

他人の関与なく自分一人で書くことができる自筆証書遺言は、手軽に作成できるため毎年の元日に新しい遺言書を書く人もいるなんて記事を見たことがあります。

そんな自筆証書遺言ですが、手軽に作成できる半面、記載内容には注意が必要です。
たとえば、財産を相続させたいのか、遺贈したいのか、はその相手によってできる事とできない事があります。

まず「相続させる」相手は相続人に限られます。それに対して「遺贈する」のは相手が相続人でも相続人以外でもかまいません。

それでは、自身の子が存命中に「孫に相続させる」という内容の遺言はどうなるでしょうか。
厳密に言えばこの場合の孫は相続人ではないので財産を相続させることはできないということになりそうですが、裁判所の考えではなるべく故人の意思を尊重しようということで「孫に遺贈する」という扱いがなされるようです。

ただし、裁判所が上記のように判断してくれるのは「相続」「遺贈」という用語(民法に書かれている用語)を使用しているからであり、「財産を譲る」「財産を任せる」「財産を託す」といった書き方をした場合は自分の思いが実現されない可能性もあります。

「任せる」と書かれた遺言についての裁判所の判断について見てみます。

まず、遺言の内容について最高裁昭和30年5月10日判決では、「意思表示の内容は当事者の真意を合理的に探究し、できるかぎり適法有効なものとして解釈すべきを本旨とし、遺言についてもこれと異なる解釈をとるべき理由は認められない」とする判例があります。

単に記載されている文言だけで判断するのではなく、遺言が書かれたときの状況も考慮して遺言者の意思に沿う内容として判断することになります。

東京高裁昭和61年6月18日判決では、「『まかせる』という言葉は、本来『事の処置などを他のものにゆだねて、自由にさせる。相手の思うままにさせる。』ことを意味するにすぎず、与える(自分の所有物を他人に渡して、その人の物とする。)という意味を全く含んでいない」として、遺贈の意味ではないとしました。

大阪高裁平成25年9月5日判決では、「遺言書作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況に鑑みると、本件遺言は、遺産全部を包括遺贈する趣旨のものであると理解するのが相当である」として、遺贈の意味であるとしました。

「任せる」と書いたばかりにここまでの争いになってしまうのです。自筆証書遺言を書く場合はくれぐれも注意が必要です。